〔死者の通り〕Street of the Dead
その１…「通り」について
一般的に、〔月の広場〕の入り口から、〔城砦〕西面の南西の角までが、〔死者の通り〕と呼ばれています。観光案内地図を眺めれば、見事なまでに太い直線が都市を縦貫しています。「なるほど確かに、大通りだ」と見てとってしまいます。
メシーカ時代やスペイン時代に書かれた手書きの地図を見ると、5つの広場の区画を書き出しているマップはありません。もしかすると、かなり近代まで、半地下式広場には土砂が溜まったままだったのではないでしょうか。特に命名したメシーカ族はアップダウンのほとんどない〔死者の通り〕中部を歩き、その下に半地下式広場が埋まっているとは夢にも思わなかった、という可能性もあります。
でも現地に行き、北から南下し、〔太陽のピラミッド〕を過ぎると、大きな矩形の低い広がりを目にします。
↑第１半地下式広場。
南からでも〔サン・フアン川〕の橋を渡ると、高さ2mの土留めが迫って見えます。
↑第５半地下式広場の南の土留め。
どちらも、道とは呼べません。〔死者の通り〕の中部の半地下式広場の両脇（東西側面）には、小道も見当たりません。〔死者の通り〕の構造を図示します。なお、「第１半地下式広場」という呼称は、私のアイディアです。
↑on Google Earth。
北から順番に見ていきましょう。
第１半地下式広場……
南を見ています。左手前に〔太陽のピラミッド〕があり、右の舗装面が〔死者の通り〕北部の南端です。両方からの水を吸い込む／流し落とすための構造が写っています。
南から見ています。左に見える草の薄い線は、側溝の蓋です。
第２半地下式広場……
南を見ています。右に排水溝が伸びています。左に〔ヴァイキング・グループ〕が写っています。どの階段も、広場面に直接繋がっています。
第２と第３を隔てる土手道↓です。幅は10m程でしょうか。第２より第３は低まっています。
第３半地下式広場……
ほぼ中央に建築物があります。一段目はタルー様式でしょう。祭壇と判断していいのかは不詳です。
第４半地下式広場……
第４に祭壇はありません。右に〔西の広場〕の東面が写り、東には〔東の広場〕↓が見えます。
第4と第5の間の土手道↓です。
第５半地下式広場……
ここには基壇↓があります。第３のそれとは姿が異なるようです。東側にマウンドがあります。〔東の広場〕複合体の一部でまだ発掘されていないように見えます。
〔死者の通り〕北部の南端へ戻り、中部を南へ見下ろしてみましょう。
手前が第１で、第４まで写っており、その向こうに低まって第５があります。不謹慎な表現ですが、「よじ登り競争」のスタジアムのようです。写真中央の左側に、〔城砦〕の基壇の一部が見えます。
第１から第５まで、共通事項がありました。低い広場であること、高さ数mの土手道で仕切られていること、排水溝が貫かれていること、広場の底面と隣接する複合体の間には小道がないことです。非共通事項は、祭壇の有無です。
私の印象ですが、〔死者の通り〕中部には、平民が気楽に歩けるはずはない、外部からの巡礼者も好き勝手に歩き回れない雰囲気があります。おそらくは、〔死者の通り〕の外側の側道小道を使って移動するのが基本だったのではないでしょうか。
〔月のピラミッド〕へ話は飛びますが、〔月の広場〕の隅に給水口と排水口がある、という言葉での報告があります。
また、〔城砦〕の広場には、北東角に給水口、すぐの水路に生贄、南東の角に排水口が報告されています。いくつかの書物に、ある大雨の日に大広場に雨水が溜まり、四角い湖と呼んでもいいぐらいの水の写真が載っています。宗教的に言えば、神話上の「原始の海」でしょう。
水を溜めないなら、半地下式にする必要はありません。掘るだけ余計な労力がかかりますし、雨季に儀式／集合をしたいなら、排水が素早くできません。全ての広場が、低く、半地下式なのは、溜めた水を舞台の一部として祭祀を行うという目的があるからです。これまで見てきた近隣集合住宅にもいくつかの貯水槽がありました。
〔死者の通り〕に限定して、水舞台地図を作ってみました。
これが事実だったなら、長さ2kmを超える壮大な水のステージの完成です。概念的ですが、テオティワカン中に〔トラロック神〕の象徴たる太い丸が無数に描かれているのは、「水の都市」でありたかったからでしょう。
これほどの催事を行えるのは、政府しかないでしょう。そして、それぞれの半地下式広場に面した中心部神殿／住居の方々が、維持管理や掃除を委託されていたかもしれません。
その２…「死者」について
「死者」とは、そもそも誰がいつ、使い始めた単語なのでしょうか？ 西暦1300年にメシーカ族が訪問した際に、住んでいた少数の人たちから、その言葉を聞き、絵文書に残した、というのが有力な説です。
しかし一方、死者数に視点を置くと、450年間常に12万人が住んでいたということは、25年で新世代が生まれると仮定すれば、延べ216万人生きていたはずです。それなのに、これまでに発掘された墓は、1,000、4,000、あるいは10,000か私には数えられませんが、とても少な過ぎます。遺体はどこにあるのでしょう、どこへ行ったのでしょうか。
鳥葬なら痕跡はほどんど残りませんが、それを描いた土器も壁画もないので、可能性はありません。まさか、〔死者の通り〕の地下が共同埋葬墓地で、考古学者の誰一人として痕跡を発見していない、なんて可能性も皆無でしょう。
ではなぜ、西暦1300年の住民がメシーカ族へ「死者」という言葉を発したのでしょうか。興味深い指摘があります。
１、マヤ文化圏の西部に、遺体をムシロで包み、石の仮面をゆわえつけた遺体の墓が見つかっている。
２、メシーカの首都のテノチティトランでは、中央階段に斜めに立てかけた旗手の像が出土している。
↑at テンプロ・マヨール博物館。
推論……中心街神殿／住居の住民の遺体は、ムシロに包まれ、紐で巻かれ、緑石の仮面を結び付けられれ、神殿への階段に斜めに横たえられた。自然の腐敗に任せた。
うーむ。
もしかしたら、西のコロラドの丘に、「王家の谷」ならぬ「エリートたちの洞窟」がまだ見つかっていないだけなのかもしれません。
